れてある。
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年月をまつに引かれて経《ふ》る人に今日《けふ》鶯の初音《はつね》聞かせよ
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「音せぬ里の」(今日だにも初音聞かせよ鶯の音せぬ里は住むかひもなし)と書かれてあるのを読んで、源氏は身にしむように思った。正月ながらもこぼれてくる涙をどうしようもないふうであった。
「この返事は自分でなさい。きまりが悪いなどと気どっていてよい相手でない」
源氏はこう言いながら、硯《すずり》の世話などをやきながら姫君に書かせていた。かわいい姿で、毎日見ている人さえだれも見飽かぬ気のするこの人を、別れた日から今日まで見せてやっていないことは、真実の母親に罪作りなことであると源氏は心苦しく思った。
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引き分かれ年は経《ふ》れども鶯の巣立ちし松の根を忘れめや
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少女の作でありのままに過ぎた歌である。
夏の夫人の住居《すまい》は時候違いのせいか非常に静かであった。わざと風流がった所もなく、品よく、貴女《きじょ》の家らしく住んでいた。源氏と夫人の二人の仲にはもう少しの隔てというものもなくなって、徹底した友
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