あると思いながらも、ここではまじめな一面だけを見せている源氏はなおも注意をする。
「毛皮はお坊様にあげたほうが適当でいいのですよ、そんな物より、白い着物という物は何枚でも重ねて着ていいのですからね。なぜあなたはそうしないのですか。入り用な物も送ってよこすのを私が忘れていれば、遠慮なく言ってよこしてください。もとからぼんやりとした私はまた怠《なま》け者でもあるし、ほかの方たちのこととこんがらがってしまうこともあって、済まない結果にもなるのですよ」
 と言って源氏は、隣の二条院のほうの蔵《くら》をあけさせ、絹や綾《あや》を多く紅《くれない》の女王に贈った。荒れた所もないが、男主人の平生住んでいない家は、どことなく寂しい空気のたまっている気がした。前の庭の木立ちだけは春らしく見えて、咲いた紅梅なども賞翫《しょうがん》する人のないのをながめて、

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ふるさとの春の木末にたづねきて世の常ならぬ花を見るかな
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 と源氏は独言《ひとりごと》したが、鼻の赤い夫人は何のこととも気づかなかったであろう。
 空蝉《うつせみ》の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。そ
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