き草とか、歌に使う名所の名とかの集めてあるのを始終見ていて、その中にある言葉を抜き出して使う習慣のついている人は、それよりほかの作り方ができないものと見える。常陸《ひたち》の親王のお書きになった紙屋紙《かんやがみ》の草紙というのを、読めと言って女王《にょおう》さんが貸してくれたがね、歌の髄脳《ずいのう》、歌の病《やまい》、そんなことがあまりたくさん書いてあったから、もともとそのほうの才分の少ない私などは、それを見たからといって、歌のよくなる見込みはないから、むずかしくてお返ししましたよ。それに通じている人の歌としては、だれでもが作るような古いところがあるじゃないかね」
 滑稽《こっけい》でならないように源氏に笑われている末摘花の女王はかわいそうである。夫人はまじめに、
「なぜすぐお返しになりましたの、写させておいて姫君にも見せておあげになるほうがよかったでしょうにね。私の書物の中にも古いその本はありましたけれど、虫が穴をあけて何も読めませんでした。その御本に通じていて歌の下手《へた》な方よりも、全然知らない私などはもっとひどく拙《つたな》いわけですよ」
 と言った。
「姫君の教育にそん
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