でしょう。同じ所へね。あまりに奥様を古物扱いにあそばすではありませんか」
と言っていた。
姫君は三台ほどの車に分乗させた女房たちといっしょに六条院へ移って来た。女房の服装なども右近が付いていたから田舎《いなか》びずに調えられた。源氏の所からそうした人たちに入り用な綾《あや》そのほかの絹布類は呈供してあったのである。
その晩すぐに源氏は姫君の所へ来た。九州へ行っていた人たちは昔光源氏という名は聞いたこともあったが、田舎住まいをしたうちにそのまれな美貌《びぼう》の人がこの世に現存していることも忘れていて今ほのかな灯《ひ》の明りに几帳《きちょう》の綻《ほころ》びから少し見える源氏の顔を見ておそろしくさえなったのであった。源氏の通って来る所の戸口を右近があけると、
「この戸口をはいる特権を私は得ているのだね」
と笑いながらはいって、縁側の前の座敷へすわって、
「灯があまりに暗い。恋人の来る夜のようではないか。親の顔は見たいものだと聞いているがこの明りではどうだろう。あなたはそう思いませんか」
と言って、源氏は几帳を少し横のほうへ押しやった。姫君が恥ずかしがって身体《からだ》を細くして
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