とお考えになって、
「私などはまして何もわかりはいたしませんで、いつも皆よろしいように思われますけれど、そのうちでも怪しいと申します夕べ(いつとても恋しからずはあらねども秋の夕べは怪しかりけり)は私のためにも亡《な》くなりました母の思い出される時になっておりまして、特別な気がいたします」
お言葉|尻《じり》のしどけなくなってしまう様子などの可憐《かれん》さに、源氏は思わず規《のり》を越した言葉を口に出した。
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「君もさは哀れをかはせ人知れずわが身にしむる秋の夕風
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忍びきれないおりおりがあるのです」
宮のお返辞のあるわけもない。腑《ふ》に落ちないとお思いになるふうである。いったんおさえたものが外へあふれ出たあとは、その勢いで恋も恨みも源氏の口をついて出てきた。それ以上にも事を進ませる可能性はあったが、宮があまりにもあきれてお思いになる様子の見えるのも道理に思われたし、自身の心もけしからぬことであると思い返されもして源氏はただ歎息《たんそく》をしていた。艶《えん》な姿ももう宮のお目にはうとましいものにばかり見えた。柔らかにみじろぎを
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