いて、くわしく話してくれた。
「もうずっと前からお悪いのを我慢あそばして仏様のお勤めを少しもお休みになりませんでしたのが、積もり積もってどっとお悪くおなりあそばしたのでございます。このごろでは柑子《こうじ》類すらもお口にお触れになりませんから、御衰弱が進むばかりで、御心配申し上げるような御容体におなりあそばしました」
 と歎くのであった。
「院の御遺言をお守りくだすって、陛下の御後見をしてくださいますことで、今までどれほど感謝して参ったかしれませんが、あなたにお報いする機会がいつかあることと、のんきに思っておりましたことが、今日になりましてはまことに残念でなりません」
 お言葉を源氏へお取り次がせになる女房へ仰せられるお声がほのかに聞こえてくるのである。源氏はお言葉をいただいてもお返辞ができずに泣くばかりである。見ている女房たちにはそれもまた悲しいことであった。どうしてこんなに泣かれるのか、気の弱さを顕わに見せることではないかと人目が思われるのであるが、それにもかかわらず涙が流れる。女院のお若かった日から今日までのことを思うと、恋は別にして考えても惜しいお命が人間の力でどうなることとも
前へ 次へ
全41ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング