のは、明石に持つ愛情の深さがしからしめるのである。明石も源氏のその気持ちを尊重して、出すぎたと思われることはせず、卑下もしすぎないのが、源氏には感じよく思われた。相当に身分のよい愛人の家でもこれほど源氏が打ち解けて暮らすことはないという話も明石は知っていたから。近い東の院などへ移って行っては源氏に珍しがられることもなくなり、飽かれた女になる時期を早くするようなものである、地理的に不便で、特に思い立って来なければならぬ所にいるのが自分の強味であると思っているのである。明石の入道も今後のいっさいのことは神仏に任せるというようなことも言ったのであるが、源氏の愛情、娘や孫の扱われ方などを知りたがって始終使いを出していた。報《しら》せを得て胸のふさがるようなこともあったし、名誉を得た気のすることもあった。
この時分に太政大臣が薨去《こうきょ》した。国家の柱石であった人であるから帝《みかど》もお惜しみになった。源氏も遺憾《いかん》に思った。これまではすべてをその人に任せて閑暇《ひま》のある地位にいられたわけであるから、死別の悲しみのほかに責任の重くなることを痛感した。帝は御年齢の割に大人びた聡明
前へ
次へ
全41ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング