はなやかな笑顔《えがお》をしながら、
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行きて見て明日もさねこんなかなかに遠方人《をちかたびと》は心おくとも
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と言う。父母が何を言っているとも知らぬ姫君が、うれしそうに走りまわるのを見て夫人の「遠方人《おちかたびと》」を失敬だと思う心も緩和されていった。どんなにこの子のことばかり考えているであろう、自分であれば恋しくてならないであろう、こんなかわいい子供なのだからと思って、女王はじっと姫君の顔をながめていたが、懐《ふところ》へ抱きとって、美しい乳を飲ませると言って口へくくめなどして戯れているのは、外から見ても非常に美しい場面であった。女房たちは、
「なぜほんとうのお子様にお生まれにならなかったのでしょう。同じことならそれであればなおよかったでしょうにね」
などとささやいていた。
大井の山荘は風流に住みなされていた。建物も普通の形式離れのした雅味のある家なのである。明石は源氏が見るたびに美が完成されていくと思う容姿を持っていて、この人は貴女《きじょ》に何ほども劣るところがない。身分から常識的に想像すれば、ありうべくもないことと思う
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