はどんな難儀になりましても後悔などはいたしません。仏様からこの告白はお勧めを受けてすることでございます。陛下がお妊《はら》まれになりました時から、故宮はたいへんな御心配をなさいまして、私に御委託あそばしたある祈祷《きとう》がございました。くわしいことは世捨て人の私に想像ができませんでございました。大臣《おとど》が一時失脚をなさいまして難儀にお逢《あ》いになりましたころ宮の御恐怖は非常なものでございまして、重ねてまたお祈りを私へ仰せつけになりました。大臣《おとど》がそれをお聞きになりますと、また御自身のほうからも同じ御祈祷をさらに増してするようにと御下命がございまして、それは御位にお即《つ》きあそばすまで続けました祈祷でございました。そのお祈りの主旨はこうでございました」
 と言って、くわしく僧都の奏上するところを聞こし召して、お驚きになった帝の御心《みこころ》は恥ずかしさと、恐しさと、悲しさとの入り乱れて名状しがたいものであった。何とも仰せがないので、僧都は進んで秘密をお知らせ申し上げたことを御不快に思召すのかと恐懼《きょうく》して、そっと退出しようとしたのを、帝はおとどめになった。
「それを自分が知らないままで済んだなら後世《ごせ》までも罪を負って行かなければならなかったと思う。今まで言ってくれなかったことを私はむしろあなたに信用がなかったのかと恨めしく思う。そのことをほかにも知った者があるだろうか」
 と仰せられる。
「決してございません。私と王命婦《おうみょうぶ》以外にこの秘密をうかがい知った者はございません。その隠れた事実のために恐ろしい天の譴《さとし》がしきりにあるのでございます。世間に何となく不安な気分のございますのもこのためなのでございます。御幼年で何のお弁《わきま》えもおありあそばさないころは天もとがめないのでございますが、大人におなりあそばされた今日になって天が怒りを示すのでございます。すべてのことは御両親の御代《みよ》から始められなければなりません。何の罪とも知《しろ》し召さないことが恐ろしゅうございますから、いったん忘却の中へ追ったことを私はまた取り出して申し上げました」
 泣く泣く僧都の語るうちに朝が来たので退出してしまった。
 帝《みかど》は隠れた事実を夢のようにお聞きになって、いろいろと御|煩悶《はんもん》をあそばされた。故院のためにも済
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