所の者から言わせてまいりますが、そうあそばして、こんな怖《おそろ》しい所はお捨てになってほかへお移りなさいましよ。いつまでも残っております私たちだってたまりませんから」
 などと女主人に勧めるのであったが、
「そんなことをしてはたいへんよ。世間体もあります。私が生きている間は邸を人手に渡すなどということはできるものでない。こんなに恐《こわ》い気がするほど荒れていても、お父様の魂が残っていると思う点で、私はあちこちをながめても心が慰むのだからね」
 女王は泣きながらこう言って、女房たちの進言を思いも寄らぬことにしていた。手道具なども昔の品の使い慣らしたりっぱな物のあるのを、生《なま》物識りの骨董《こっとう》好きの人が、だれに製作させた物、某の傑作があると聞いて、譲り受けたいと、想像のできる貧乏さを軽蔑《けいべつ》して申し込んでくるのを、例のように女房たちは、
「しかたのないことでございますよ。困れば道具をお手放しになるのは」 
 と言って、それを金にかえて目前の窮迫から救われようとする時があると、末摘花は頑強《がんきょう》にそれを拒む。
「私が見るようにと思って作らせておいてくだすったに
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