であろう、仮にもせよ良人《おっと》は心を人に分けていた時代にと思うと恨めしくて、明石の女のために歎息《たんそく》をしている良人は良人であるというように、横のほうを向いて、
「どんなに私は悲しかったろう」
歎息しながら独言《ひとりごと》のようにこう言ってから、
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思ふどち靡《なび》く方にはあらずとも我《われ》ぞ煙に先立ちなまし
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「何ですって、情けないじゃありませんか、
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たれにより世をうみやまに行きめぐり絶えぬ涙に浮き沈む身ぞ
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そうまで誤解されては私はもう死にたくなる。つまらぬことで人の感情を害したくないと思うのも、ただ一つの私の願いのあなたと永《なが》く幸福でいたいためじゃないのですか」
源氏は十三絃の掻《か》き合わせをして、弾《ひ》けと女王に勧めるのであるが、名手だと思ったと源氏に言われている女がねたましいか手も触れようとしない。おおようで美しく柔らかい気持ちの女性であるが、さすがに嫉妬《しっと》はして、恨むことも腹を立てることもあるのが、いっそう複雑な美しさを添えて、この人
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