ついての指図《さしず》を下しなどしていた。前の斎宮司の役人などで親しく出入りしていた者などがわずかに来て葬式の用意に奔走するにすぎない六条邸であった。侍臣を送ったあとで源氏自身も葬家へ来た。斎宮に弔詞を取り次がせると、
「ただ今は何事も悲しみのためにわかりませんので」
 と女別当《にょべっとう》を出してお言わせになった。
「私に御遺言をなすったこともありますから、ただ今からは私を睦《むつ》まじい者と思召《おぼしめ》してくださいましたら幸《しあわ》せです」
 と源氏は言ってから、宮家の人々を呼び出していろいろすることを命じた。非常に頼もしい態度であったから、昔は多少恨めしがっていた一家の人々の感情も解消されていくようである。源氏のほうから葬儀員が送られ、無数の使用人が来て御息所の葬儀はきらやかに執行されたのであった。
 源氏は寂しい心を抱いて、昔を思いながら居間の御簾《みす》を下《お》ろしこめて精進の日を送り仏勤めをしていた。前斎宮へは始終見舞いの手紙を送っていた。宮のお悲しみが少し静まってきたころからは御自身で返事もお書きになるようになった。それを恥ずかしく思召すのであったが、乳母《めのと》などから、
「もったいないことでございますから」
 と言って、自筆で書くことをお勧められになるのである。雪が霙《みぞれ》となり、また白く雪になるような荒日和《あれびより》に、宮がどんなに寂しく思っておいでになるであろうと想像をしながら源氏は使いを出した。
[#ここから1字下げ] 
こういう天気の日にどういうお気持ちでいられますか。

[#ここから2字下げ]
降り乱れひまなき空に亡《な》き人の天《あま》がけるらん宿ぞ悲しき
[#ここで字下げ終わり]

 という手紙を送ったのである。紙は曇った空色のが用いられてあった。若い人の目によい印象があるようにと思って、骨を折って書いた源氏の字はまぶしいほどみごとであった。宮は返事を書きにくく思召したのであるが、
「われわれから御|挨拶《あいさつ》をいたしますのは失礼でございますから」
 と女房たちがお責めするので、灰色の紙の薫香《くんこう》のにおいを染ませた艶《えん》なのへ、目だたぬような書き方にして、

[#ここから2字下げ]
消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に
[#ここで字下げ終わり]

 とお書きになった。おとな
前へ 次へ
全22ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング