理由がわかったように彼女たちは思うのであった。
 須磨のほうでは紫の女王《にょおう》との別居生活がこのまま続いて行くことは堪えうることでないと源氏は思っているのであるが、自分でさえ何たる宿命でこうした生活をするのかと情けない家に、花のような姫君を迎えるという事はあまりに思いやりのないことであるとまた思い返されもするのである。下男や農民に何かと人の小言《こごと》を言う事なども居間に近い所で行なわれる時、あまりにもったいないことであると源氏自身で自身を思うことさえもあった。近所で時々煙の立つのを、これが海人《あま》の塩を焼く煙なのであろうと源氏は長い間思っていたが、それは山荘の後ろの山で柴《しば》を燻《く》べている煙であった。これを聞いた時の作、

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山がつの庵《いほり》に焚《た》けるしばしばも言問ひ来なむ恋ふる里人
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 冬になって雪の降り荒れる日に灰色の空をながめながら源氏は琴を弾《ひ》いていた。良清《よしきよ》に歌を歌わせて、惟光《これみつ》には笛の役を命じた。細かい手を熱心に源氏が弾き出したので、他の二人は命ぜられたことをやめて琴の音に
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