流るるみをの初めなりけん
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こんなに人への執着が強くては仏様に救われる望みもありません。
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間で盗み見されることがあやぶまれて細かには書けなかったのである。手紙を読んだ尚侍は非常に悲しがった。流れて出る涙はとめどもなかった。
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涙川浮ぶ水沫《みなわ》も消えぬべし別れてのちの瀬をもまたずて
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泣き泣き乱れ心で書いた、乱れ書きの字の美しいのを見ても、源氏の心は多く惹《ひ》かれて、この人と最後の会見をしないで自分は行かれるであろうかとも思ったが、いろいろなことが源氏を反省させた。恋しい人の一族が源氏の排斥を企てたのであることを思って、またその人の立場の苦しさも推し量って、手紙を送る以上のことはしなかった。
出立の前夜に源氏は院のお墓へ謁するために北山へ向かった。明け方にかけて月の出るころであったから、それまでの時間に源氏は入道の宮へお暇乞《いとまご》いに伺候した。お居間の御簾《みす》の前に源氏の座が設けられて、宮御自身でお話しになるのであった。宮は東宮のことを限りもなく不安に思召《おぼしめ
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