らしくこう言って御簾に身を寄せていた。
「変わった高麗人《こまうど》なのね」
と言う一人は無関係な令嬢なのであろう。何も言わずに時々|溜息《ためいき》の聞こえる人のいるほうへ源氏は寄って行って、几帳《きちょう》越しに手をとらえて、
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「あづさ弓いるさの山にまどふかなほの見し月の影や見ゆると
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なぜでしょう」
と当て推量に言うと、その人も感情をおさえかねたか、
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心いる方《かた》なりませば弓張《ゆみはり》の月なき空に迷はましやは
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と返辞をした。弘徽殿《こきでん》の月夜に聞いたのと同じ声である。源氏はうれしくてならないのであるが。
底本:「全訳源氏物語 上巻」角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年8月10日改版初版発行
1994(平成6)年12月20日56版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。
※校正には、2002(平成14)年4月5日71版を使用しま
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