い源氏を、婿であるなどとはお知りにならないで、この人を女にしてみたいなどと若々しく考えておいでになった。夜になると兵部卿の宮は女御の宮のお座敷のほうへはいっておしまいになった。源氏はうらやましくて、昔は陛下が愛子としてよく藤壺の御簾《みす》の中へ自分をお入れになり、今日のように取り次ぎが中に立つ話ではなしに、宮口ずからのお話が伺えたものであると思うと、今の宮が恨めしかった。
「たびたび伺うはずですが、参っても御用がないと自然|怠《なま》けることになります。命じてくださることがありましたら、御遠慮なく言っておつかわしくださいましたら満足です」
などと堅い挨拶《あいさつ》をして源氏は帰って行った。王命婦も策動のしようがなかった。宮のお気持ちをそれとなく観察してみても、自分の運命の陥擠《かんせい》であるものはこの恋である、源氏を忘れないことは自分を滅ぼす道であるということを過去よりもまた強く思っておいでになる御様子であったから手が出ないのである。はかない恋であると消極的に悲しむ人は藤壺の宮であって、積極的に思いつめている人は源氏の君であった。
少納言は思いのほかの幸福が小女王の運命に現われてきたことを、死んだ尼君が絶え間ない祈願に愛孫のことを言って仏にすがったその効験《ききめ》であろうと思うのであったが、権力の強い左大臣家に第一の夫人があることであるし、そこかしこに愛人を持つ源氏であることを思うと、真実の結婚を見るころになって面倒《めんどう》が多くなり、姫君に苦労が始まるのではないかと恐れていた。しかしこれには特異性がある。少女の日にすでにこんなに愛している源氏であるから将来もたのもしいわけであると見えた。母方の祖母の喪は三か月であったから、師走《しわす》の三十日に喪服を替えさせた。母代わりをしていた祖母であったから除喪のあとも派手《はで》にはせず濃くはない紅の色、紫、山吹《やまぶき》の落ち着いた色などで、そして地質のきわめてよい織物の小袿《こうちぎ》を着た元日の紫の女王は、急に近代的な美人になったようである。源氏は宮中の朝拝の式に出かけるところで、ちょっと西の対へ寄った。
「今日からは、もう大人になりましたか」
と笑顔《えがお》をして源氏は言った。光源氏の美しいことはいうまでもない。紫の君はもう雛《ひな》を出して遊びに夢中であった。三尺の据棚《すえだな》二つにいろ
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