、その人らはあちらへ立って行って。間もなく源氏の夕飯が西の対へ運ばれた。源氏は女王を起こして、
「もう行かないことにしましたよ」
 と言うと慰んで起きた。そうしていっしょに食事をしたが、姫君はまだはかないようなふうでろくろく食べなかった。
「ではお寝《やす》みなさいな」
 出ないということは嘘《うそ》でないかと危《あぶ》ながってこんなことを言うのである。こんな可憐《かれん》な人を置いて行くことは、どんなに恋しい人の所があってもできないことであると源氏は思った。
 こんなふうに引き止められることも多いのを、侍などの中には左大臣家へ伝える者もあってあちらでは、
「どんな身分の人でしょう。失礼な方ですわね。二条の院へどこのお嬢さんがお嫁《かたづ》きになったという話もないことだし、そんなふうにこちらへのお出かけを引き止めたり、またよくふざけたりしていらっしゃるというのでは、りっぱな御身分の人とは思えないじゃありませんか。御所などで始まった関係の女房級の人を奥様らしく二条の院へお入れになって、それを批難さすまいとお思いになって、だれということを秘密にしていらっしゃるのですよ。幼稚な所作が多いのですって」
 などと女房が言っていた。
 御所にまで二条の院の新婦の問題が聞こえていった。
「気の毒じゃないか。左大臣が心配しているそうだ。小さいおまえを婿にしてくれて、十二分に尽くした今日までの好意がわからない年でもないのに、なぜその娘を冷淡に扱うのだ」
 と陛下がおっしゃっても、源氏はただ恐縮したふうを見せているだけで、何とも御返答をしなかった。帝《みかど》は妻が気に入らないのであろうとかわいそうに思召《おぼしめ》した。
「格別おまえは放縦な男ではなし、女官や女御たちの女房を情人にしている噂《うわさ》などもないのに、どうしてそんな隠し事をして舅《しゅうと》や妻に恨まれる結果を作るのだろう」
 と仰せられた。帝はもうよい御年配であったが美女がお好きであった。采女《うねめ》や女蔵人《にょくろうど》なども容色のある者が宮廷に歓迎される時代であった。したがって美人も宮廷には多かったが、そんな人たちは源氏さえその気になれば情人関係を成り立たせることが容易であったであろうが、源氏は見|馴《な》れているせいか女官たちへはその意味の好意を見せることは皆無であったから、怪しがってわざわざその人たちが戯
前へ 次へ
全19ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング