命婦は自分の知っているだけのことを源氏に話した。
「貴婦人らしい聡明《そうめい》さなどが見られないのだろう、いいのだよ、無邪気でおっとりとしていれば私は好きだ」
 命婦に逢《あ》えばいつもこんなふうに源氏は言っていた。その後源氏は瘧病《わらわやみ》になったり、病気がなおると少年時代からの苦しい恋の悩みに世の中に忘れてしまうほどに物思いをしたりして、この年の春と夏とが過ぎてしまった。秋になって、夕顔の五条の家で聞いた砧《きぬた》の耳についてうるさかったことさえ恋しく源氏に思い出されるころ、源氏はしばしば常陸の宮の女王へ手紙を送った。返事のないことは秋の今も初めに変わらなかった。あまりに人並みはずれな態度をとる女だと思うと、負けたくないというような意地も出て、命婦へ積極的に取り持ちを迫ることが多くなった。
「どんなふうに思っているのだろう。私はまだこんな態度を取り続ける女に出逢ったことはないよ」
 不快そうに源氏の言うのを聞いて命婦も気の毒がった。
「私は格別この御縁はよろしくございませんとも言っておりませんよ。ただあまり内気過ぎる方で男の方との交渉に手が出ないのでしょうと、お返事の来
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