様はどこにいらっしゃいますか。このお格子はしめてしまいますよ」
と言って格子をことことと中から鳴らした。
「もう皆寝るのだろう、じゃあはいって行って上手にやれ」
と源氏は言った。小君もきまじめな姉の心は動かせそうではないのを知って相談はせずに、そばに人の少ない時に寝室へ源氏を導いて行こうと思っているのである。
「紀伊守の妹もこちらにいるのか。私に隙見《すきみ》させてくれ」
「そんなこと、格子には几帳《きちょう》が添えて立ててあるのですから」
と小君が言う。そのとおりだ、しかし、そうだけれどと源氏はおかしく思ったが、見たとは知らすまい、かわいそうだと考えて、ただ夜ふけまで待つ苦痛を言っていた。小君は、今度は横の妻戸をあけさせてはいって行った。
女房たちは皆寝てしまった。
「この敷居の前で私は寝る。よく風が通るから」
と言って、小君は板間《いたま》に上敷《うわしき》をひろげて寝た。女房たちは東南の隅《すみ》の室に皆はいって寝たようである。小君のために妻戸をあけに出て来た童女もそこへはいって寝た。しばらく空寝入りをして見せたあとで、小君はその隅の室からさしている灯《ひ》の明りのほうを、ひろげた屏風《びょうぶ》で隔ててこちらは暗くなった妻戸の前の室へ源氏を引き入れた。人目について恥をかきそうな不安を覚えながら、源氏は導かれるままに中央の母屋《もや》の几帳の垂絹《たれ》をはねて中へはいろうとした。
それはきわめて細心に行なっていることであったが、家の中が寝静まった時間には、柔らかな源氏の衣摺《きぬず》れの音も耳立った。女は近ごろ源氏の手紙の来なくなったのを、安心のできることに思おうとするのであったが、今も夢のようなあの夜の思い出をなつかしがって、毎夜安眠もできなくなっているころであった。
人知れぬ恋は昼は終日物思いをして、夜は寝ざめがちな女にこの人をしていた。碁の相手の娘は、今夜はこちらで泊まるといって若々しい屈託のない話をしながら寝てしまった。無邪気に娘はよく睡《ねむ》っていたが、源氏がこの室へ寄って来て、衣服の持つ薫物《たきもの》の香が流れてきた時に気づいて女は顔を上げた。夏の薄い几帳越しに人のみじろぐのが暗い中にもよく感じられるのであった。静かに起きて、薄衣《うすもの》の単衣《ひとえ》を一つ着ただけでそっと寝室を抜けて出た。
はいって来た源氏は、外にだれ
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング