しかたがない」
中将がこう言ったので皆笑った。
「式部の所にはおもしろい話があるだろう、少しずつでも聞きたいものだね」
と中将が言い出した。
「私どもは下の下の階級なんですよ。おもしろくお思いになるようなことがどうしてございますものですか」
式部丞《しきぶのじょう》は話をことわっていたが、頭中将《とうのちゅうじょう》が本気になって、早く早くと話を責めるので、
「どんな話をいたしましてよろしいか考えましたが、こんなことがございます。まだ文章生《もんじょうせい》時代のことですが、私はある賢女の良人《おっと》になりました。さっきの左馬頭《さまのかみ》のお話のように、役所の仕事の相談相手にもなりますし、私の処世の方法なんかについても役だつことを教えていてくれました。学問などはちょっとした博士《はかせ》などは恥ずかしいほどのもので、私なんかは学問のことなどでは、前で口がきけるものじゃありませんでした。それはある博士の家へ弟子《でし》になって通っておりました時分に、先生に娘がおおぜいあることを聞いていたものですから、ちょっとした機会をとらえて接近してしまったのです。親の博士が二人の関係を知る
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