つ》の栓《せん》をさし直して、張紙《はりこ》の※[#「髟/休」、第3水準1−94−26]猪口《ぬりちょく》の中は総金箔《ひたはく》になっているのに一盃ついで、一[#(ト)]口|呑《の》んだままなおそれを手にして四方《あたり》を眺《なが》めている。自分は人々に傚《なら》って、堤腹に脚《あし》を出しながら、帰路《かえり》には捨てるつもりで持って来た安い猪口に吾《わ》が酒を注《つ》いで呑んだ。
 見ると東坡巾先生は瓢も玉盃も腰にして了《しま》って、懐中《ふところ》の紙入から弾機《ばね》の無い西洋ナイフのような総真鍮製《そうしんちゅうせい》の物を取出して、刃《は》を引出して真直《まっすぐ》にして少し戻《もど》すと手丈夫《てじょうぶ》な真鍮の刀子《とうす》になった。それを手にして堤下《どてした》を少しうろついていたが、何か掘《ほ》っていると思うと、たちまちにして春の日に光る白い小さい球根を五つ六つ懐《ふところ》から出した半紙の上に載《の》せて戻《もど》って来た。ヤア、と云って皆は挨拶した。
 鼠股引氏は早速《さっそく》にその球《たま》を受取って、懐紙《かいし》で土を拭って、取出した小短冊形の杉板
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