度せしめ玉へと、雄※[#二の字点、1−2−22]しくも云ひ出でたれば、其心根の麗せきに愛でゝ、我また雄※[#二の字点、1−2−22]しくも丈なる烏羽玉《うばたま》の髪を落して色ある衣《きぬ》を脱ぎ棄てさせ、四弘誓願《しぐせいぐわん》を唱へしめぬ、や、何と仕玉へる、泣き玉ふか、涙を流し玉ふか、無理ならず、菩提の善友よ、泣き玉ふ歟、嬉しさにこそ泣き玉ふならめ、浄土の同行よ、落涙あるか、定めし感涙にこそ御坐すらめ、おゝ、余りの有難さに自分《おのれ》もまた涙聊か誘はれぬ、さて美しき姫は亡せ果てたり、美しき尼君は生《な》り出で玉ひぬ、青※[#二の字点、1−2−22]としたる寒げの頭《かしら》、鼠色《ねずみ》の法衣《ころも》、小き数珠《ずゞ》、殊勝なること申すばかり無し、高野の別所に在る由の菩提の友を訪《とぶら》はんとて飄然として立出で玉ひぬ、其後の事は知るよし無し、燕の忙《せは》しく飛ぶ、兎の自ら剥ぐ、親は皆自ら苦む習なれば子を思はざる人のあらんや、但し欲楽の満足を与へ栄華の十分を享けしむるは、木葉《このは》を与へて児の啼きを賺《す》かす其にも増して愚のことなり、世を捨つる人がまことに捨つるかは
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