て俗事に遠ざからんかた賢かるべしとて、そこに一日、かしこに二日と、此御仏彼御仏の別ちも無くそれ/\の御堂を拝み巡りては、或《ある》は祈願を籠めて参籠の誠を致し、或は和歌を奉りて讃歎の意を表し来りけるが、仏天の御思召にも協ひけん聊か冥加も有りとおぼしく、幸に道心のほかの他心《あだしごゝろ》も起さず勝縁を妨ぐる魔縁にも遇はで、終に今日に及ぶを得たり。既徃の誠に欣ぶべきに将来の猶頼まゝほしく、長谷の御寺の観世音菩薩の御前に今宵は心ゆくほど法施《ほふせ》をも奉らんと立出でたるが、夜※[#二の字点、1−2−22]に霜は募りて樹※[#二の字点、1−2−22]に紅は増す神無月《かんなづき》の空のやゝ寒く、夕日力無く舂《うすつ》きて、晩《おく》れし百舌の声のみ残る、暮方のあはれさの身に浸むことかな。見れば路の辺の草のいろ/\、其とも分かず皆いづれも同じやうに枯れ果てゝ崩折《くづほ》れ偃《ふ》せり。珍らしからぬ冬野のさま、取り出でゝ云ふべくはあらねども、折からの我が懐《おもひ》に合ふところあり。情《こゝろ》を結び詞《ことば》を束ねて、歌とも成らば成して見ん、おゝそれよ、さま/″\に花咲きたりと見し野辺の
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