ら》めき交《ちが》ふ時を来し、憎しとおもふ人※[#二の字点、1−2−22]に朕が辛かりしほどを見するまで、朝家に酷《むご》く祟《たゝり》をなして天が下をば掻き乱さむ、と御勢ひ凛※[#二の字点、1−2−22]しく誥《つ》げたまふにぞ、西行あまりの御あさましさに、滝と流るゝ熱き涙をきつと抑へて、恐る惶《おそ》るいさゝか首《かうべ》を擡《もた》げゝる。

       其六

 こは口惜くも正《まさ》なきことを承はるものかな、御言葉もどかんは恐れ多けれど、方外の身なれば憚り無く申し聞えんも聊か罪浅う思し召されつべくやと、遮つて存じ寄りのほどを言《まを》し試み申すべし、御憤はまことにさる事ながら、若人|瞋《いか》り打たずんば何を以てか忍辱《にんにく》を修めんとも承はり伝へぬ、畏れながら、ながらへて終に住むべき都も無ければ憂き折節に遇ひたまひたるを、世中《よのなか》そむかせたまふ御便宜《おんたより》として、いよ/\法海の深みへ渓河《たにがは》の浅きに騒ぐ御心を注がせたまひ、彼岸の遠きへ此|土《ど》の汀去りかぬる御迷を船出せさせ玉ひて、玉をつらぬる樹《こ》の下に花降り敷かむ時に逢はむを待ちおはす由
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