ヽアと心づいたことも幾度かあつた。
髮の禿切《かぶつきり》のことを「かぶつちろ」といふ田舍言葉などは、かぶつきりのアイヌの繪看板の前で、それを見てゐた田舍者と君とが對談してゐたところを聽いてから、いまだに可笑しくて記憶してゐる。このやうに何でもないところや何でもない人から、何かおもしろいものを抽出すのは、實に驚くべき君の能力であつた。
で、君と遊歩すると、面白くも何ともないところを通つても、大なり小なり何か興味を覺えるところがあつた。君は天成の福人で、造化の音樂を樂しく聽く聽慧を有した人であつた。君の大體の輪廓は、嘗つて一文を草してこれを描いてゐるつもりであるから今は省く。
[#地から2字上げ](昭和十三年六月)
底本:「露伴全集第三十卷」岩波書店
1954(昭和29)年7月16日初版発行
1979(昭和54)年7月16日2刷
初出:「東京日日新聞」
1938(昭和13)年6月4日号、5日号
入力:土倉明彦
校正:小林繁雄
2007年8月15日作成
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