》、名は正賓《せいひん》というものがあった。廷珸と同じ徽州《きしゅう》のもので、親類つづきだなどいっていたが、この男は※[#「てへん+晉」、第3水準1−84−87]紳《しんしん》の間にも遊び、少しは鼎彝《ていい》書画の類をも蓄え、また少しは眼もあって、本業というのではないが、半黒人《はんくろうと》で売ったり買ったりもしようという男だ。こういう男は随分世間にもあるもので、雅《が》のようで俗で、俗のようで物好《ものずき》でもあって、愚のようで怜悧《りこう》で、怜悧のようで畢竟《ひっきょう》は愚のようでもある。不才の才子である。この正賓はいつも廷珸と互《たがい》に所有の骨董を取易《とりか》えごとをしたり、売買《うりかい》の世話をしたりさせたりして、そして面白がっていた。この男が自分の倪雲林《げいうんりん》の山水《さんすい》一|幅《ぷく》、すばらしい上出来なのを廷珸に託して売ってもらおうとしていた。価は百二十金で、ちょっとはないほどのものだった。で、廷珸の手へ託しては置いたが、金高《かねだか》ものでもあり、口が遠くて長くなる間に、どんな事が起らぬとも限らぬと思ったので、そこでなかなかウッカリし
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