、塔は何より地行《じぎょう》が大事、空風火水の四ツを受ける地盤の固めをあれにさせれば、火の玉鋭次が根性だけでも不動が台座の岩より堅く基礎《いしずえ》しかと据《す》えさすると諸肌《もろはだ》ぬいでしてくるるは必定《ひつじょう》、あれにもやがて紹介《ひきあわ》しょう、もうこうなった暁には源太が望みはただ一ツ、天晴《あっぱ》れ十兵衛汝がよくしでかしさえすりゃそれでよいのじゃ、ただただ塔さえよくできればそれに越した嬉しいことはない、かりそめにも百年千年末世に残って云わば我たちの弟子筋の奴らが眼にも入るものに、へまがあっては悲しかろうではないか、情ないではなかろうか、源太十兵衛時代にはこんなくだらぬ建物に泣いたり笑ったりしたそうなと云われる日には、なあ十兵衛、二人が舎利《しゃり》も魂魄《たましい》も粉灰《こばい》にされて消し飛ばさるるわ、拙《へた》な細工で世に出ぬは恥もかえって少ないが、遺したものを弟子めらに笑わる日には馬鹿|親父《おやじ》が息子に異見さるると同じく、親に異見を食う子より何段増して恥かしかろ、生き磔刑《はりつけ》より死んだ後塩漬の上磔刑になるような目にあってはならぬ、初めは我もこれほどに深くも思い寄らなんだが、汝が我の対面《むこう》にたったその意気張りから、十兵衛に塔建てさせ見よ源太に劣りはすまいというか、源太が建てて見せくりょう何十兵衛に劣ろうぞと、腹の底には木を鑚《き》って出した火で観《み》る先の先、我意はなんにもなくなったただよくできてくれさえすれば汝も名誉《ほまれ》我も悦び、今日はこれだけ云いたいばかり、ああ十兵衛その大きな眼を湿《うる》ませて聴《き》いてくれたか嬉しいやい、と磨《みが》いて礪《と》いで礪ぎ出した純粋《きっすい》江戸ッ子粘り気なし、一《ぴん》でなければ六と出る、忿怒《いかり》の裏の温和《やさし》さもあくまで強き源太が言葉に、身動《みじろ》ぎさえせで聞きいし十兵衛、何も云わず畳に食いつき、親方、堪忍《かに》して下され口がきけませぬ、十兵衛には口がきけませぬ、こ、こ、この通り、ああありがとうござりまする、と愚かしくもまた真実《まこと》にただ平伏《ひれふ》して泣きいたり。
其二十二
言葉はなくても真情《まこと》は見ゆる十兵衛が挙動《そぶり》に源太は悦び、春風|湖《みず》を渡って霞《かすみ》日に蒸すともいうべき温和の景色を面にあ
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