丈夫でござりまする、と同じことをいう。末には七蔵|焦《じ》れこんで、なんでもかでも来いというたら来い、我の言葉とおもうたら違うぞ円道様為右衛門様の御命令《おいいつけ》じゃ、と語気あらくなれば十兵衛も少し勃然《むっ》として、我《わし》は円道様為右衛門様から五重塔建ていとは命令《いいつ》かりませぬ、お上人様は定めし風が吹いたからとて十兵衛よべとはおっしゃりますまい、そのような情ないことを云うては下さりますまい、もしもお上人様までが塔|危《あぶな》いぞ十兵衛呼べと云わるるようにならば、十兵衛一期の大事、死ぬか生きるかの瀬門《せと》に乗っかかる時、天命を覚悟して駈けつけましょうなれど、お上人様が一言半句十兵衛の細工をお疑いなさらぬ以上は何心配のこともなし、余の人たちが何を云わりょうと、紙を材《き》にして仕事もせず魔術《てずま》も手抜きもしていぬ十兵衛、天気のよい日と同じことに雨の降る日も風の夜も楽々としておりまする、暴風雨が怖《こわ》いものでもなければ地震が怖うもござりませぬと円道様にいうて下され、と愛想なく云い切るにぞ、七蔵仕方なく風雨の中を駈け抜けて感応寺に帰りつき円道為右衛門にこのよし云えば、さてもその場に臨んでの知恵のない奴め、なぜその時に上人様が十兵衛来いとの仰せじゃとは云わぬ、あれあれあの揺るる態《さま》を見よ、汝《きさま》までがのっそりに同化《かぶ》れて寛怠過ぎた了見じゃ、是非はない、も一度行って上人様のお言葉じゃと欺誑《たばか》り、文句いわせず連れて来い、と円道に烈しく叱られ、忌々《いまいま》しさに独語《つぶや》きつつ七蔵ふたたび寺門を出でぬ。

     其三十四

 さあ十兵衛、今度は是非に来よ四の五のは云わせぬ、上人様のお召しじゃぞ、と七蔵|爺《じじ》いきりきって門口から我鳴《がな》れば、十兵衛聞くより身を起して、なにあの、上人様のお召しなさるとか、七蔵殿それは真実《まこと》でござりまするか、ああなさけない、何ほど風の強ければとて頼みきったる上人様までが、この十兵衛の一心かけて建てたものを脆《もろ》くも破壊《こわ》るるかのように思し召されたか口惜しい、世界に我を慈悲の眼で見て下さるるただ一つの神とも仏ともおもうていた上人様にも、真底からはわが手腕《うで》たしかと思われざりしか、つくづく頼もしげなき世間、もう十兵衛の生き甲斐なし、たまたま当時に双《なら》
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