らば此方の仕事を先潜りする太い奴と高飛車に叱りつけて、ぐうの音も出させぬやうに為れば成るのつそり奴を、左様甘やかして胸の焼ける連名工事《れんみやうしごと》を何で為るに当る筈のあらうぞ、甘いばかりが立派の事か、弱いばかりが好い男児か、妾の虫には受け取れませぬ、何なら妾が一[#(ト)]走りのつそり奴のところに行つて、重※[#二の字点、1−2−22]恐れ入りましたと思ひ切らせて謝罪《あやま》らせて両手を突かせて来ませうか、と女賢しき夫思ひ。源太は聞いて冷笑《あざわら》ひ、何が汝に解るものか、我の為ることを好いとおもふて居てさへ呉るればそれで可いのよ。

       其十二

 色も香も無く一言に黙つて居よと遣り込められて、聴かぬ気のお吉顔ふり上げ何か云ひ出したげなりしが、自己《おのれ》よりは一倍きかぬ気の夫の制するものを、押返して何程云ふとも機嫌を損ずる事こそはあれ、口答への甲斐は露無きを経験《おぼえ》あつて知り居れば、連添ふものに心の奥を語り明して相談かけざる夫を恨めしくはおもひながら、其所は怜悧《りこう》の女の分別早く、何も妾が遮つて女の癖に要らざる嘴《くち》を出すではなけれど、つい気
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