のもそれ/″\損じのあつたに一寸一分歪みもせず退《ず》りもせぬとは能う造つた事の。いやそれについて話しのある、其十兵衞といふ男の親分がまた滅法えらいもので、若しも些《ちと》なり破壊れでもしたら同職《なかま》の恥辱知合の面汚し、汝《うぬ》はそれでも生きて居られうかと、到底《とても》再度鉄槌も手斧も握る事の出来ぬほど引叱つて、武士で云はば詰腹同様の目に逢はせうと、ぐる/\/\大雨を浴びながら塔の周囲を巡つて居たさうな。いや/\、それは間違ひ、親分では無い商売|上敵《がたき》ぢやさうな、と我れ知り顔に語り伝へぬ。
 暴風雨のために準備《したく》狂ひし落成式もいよ/\済みし日、上人わざ/\源太を召《よ》び玉ひて十兵衞と共に塔に上られ、心あつて雛僧《こぞう》に持たせられし御筆に墨汁《すみ》したゝか含ませ、我此塔に銘じて得させむ、十兵衞も見よ源太も見よと宣《のたま》ひつゝ、江都《かうと》の住人十兵衞之を造り川越源太郎之を成す、年月日とぞ筆太に記し了られ、満面に笑を湛へて振り顧り玉へば、両人ともに言葉なくたゞ平伏《ひれふ》して拝謝《をが》みけるが、それより宝塔|長《とこしな》へに天に聳えて、西より瞻
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