どは胡麻半粒ほどであるが、やはり様子が[#「様子が」は底本では「様《さゝ》子が」]分明に見える。大江の上には帆走つてゐるやゝ大きい船もあれば、篠《さゝ》の葉形の漁舟もあつて、漁人の釣して居るらしい様子も分る。光を移して此方の岸を見ると、此方の右の方には大きな宮殿様の建物があつて、玉樹※[#「王+其」、第3水準1−88−8]花とでも云ひたい美しい樹や花が点綴してあり、殿下の庭様《にはやう》のところには朱欄曲※[#二の字点、1−2−22]と地を劃して、欄中には奇石もあれば立派な園花もあり、人の愛観を待つさま/″\の美しい禽なども居る。段※[#二の字点、1−2−22]と左へ燈光《ともしび》を移すと、大中小それ/″\の民家があり、老人《としより》や若いものや、蔬菜を荷つてゐるものもあれば、蓋《かさ》を張らせて威張つて馬に騎《の》つてゐる官人のやうなものもあり、跣足《はだし》で柳条《りうでう》に魚の鰓《あぎと》を穿《うが》つた奴をぶらさげて川から上つて来たらしい漁夫もあり、柳がところ/″\に翠烟《すゐえん》を罩《こ》めてゐる美しい道路を、士農工商|樵漁《せうぎよ》、あらゆる階級の人※[#二の字点、1−2−22]が右往左往してゐる。綺錦《ききん》の人もあれば襤褸《らんる》の人もある、冠りものをしてゐるのもあれば露頂《ろちやう》のものもある。これは面白い、春江の景色に併せて描いた風俗画だナと思つて、また段※[#二の字点、1−2−22]に燈を移して左の方へ行くと、江岸がなだらになつて川柳が扶疎《ふそ》として居り、雑樹《ざふき》がもさ/\となつて居る其末には蘆荻《ろてき》が茂つて居る。柳の枝や蘆荻の中には風が柔らかに吹いて居る。蘆のきれ目には春の水が光つて居て、そこに一艘の小舟が揺れながら浮いてゐる。船は※[#「竹かんむり/遽」、163−下−4]※[#「竹かんむり/除」、163−下−4]《あじろ》を編んで日除兼雨除といふやうなものを胴の間にしつらつてある。何やら火炉《こんろ》だの槃※[#「石+(世/木)」、第4水準2−82−46]《さら》だのの家具も少し見えてゐる。船頭の老夫《ぢいさん》は艫の方に立上つて、※[#「爿+戈」、第4水準2−12−83]※[#「爿+可」、163−下−6]《かしぐひ》に片手をかけて今や舟を出さうとしてゐながら、片手を挙げて、乗らないか乗らないかと云つて人を呼
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