たり、といへる、煙にあらず雲にあらず紫を曳き光を流す、といへる、大人作矣、五色|氤※[#「※」は「气+慍のつくり」、読みは「うん」、第3水準1−86−48、232−9]《いんうん》、といへる、金柯初めて繞繚、玉葉漸く氤※[#「※」は「气+慍のつくり」、読みは「うん」、第3水準1−86−48、232−10]、といへる、還つて九霄に入りて※[#「※」は「さんずい+亢」、第3水準1−86−55、読みは「こう」、232−10]※[#「※」は「さんずい+餐の食を韭に変えたつくり」、第4水準2−79−44、読みは「がい」、232−10]《かうがい》を成し、夕嵐生ずる処鶴松に帰る、といへる詩の句などによりて見れば、帰するところは美しき雲といふまでなり。一年の中に幾度か爛たる雲の見えざらん。若しまた余りに美しき眼なれぬ雲などの出でたらんは、気中のさまの常ならぬよりなるべければ、却つて悦ぶべからざるに似たり。五色の雲など何にせん、天は青きがめでたく、雲は白きこそ優しけれ。八雲立つの神の御歌を解きて、その時立ちし雲は天地のみたまの顕《あら》はせりし吉瑞にて、いともくしびなる雲なりけむなど橘の守部が云へるは、当れりや否や、知らず。くしびなる雲とは如何なる雲ぞや、問はまほし。八雲立ちといひたまはで、八雲立つと言い切り玉へるも彼の奇しき瑞雲に驚かせ給へる語勢なりなどいへる、ことに奇しき言なり。崇神紀の歌に、八雲立つ出雲梟師が云々と歌へるも、八雲たちとは云はで八雲立つといひたるなれば、驚きたる語勢なりといふべきか、いと奇しき言なり。
底本:「露伴全集 第29巻」岩波書店
1954(昭和29)年12月4日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を次の通りあらためました。
1.常用漢字表、人名漢字別表に掲げられている漢字を新字にあらためました。
ただし、人名については底本のままとしました。
※「山々」「勃々」「蝶々」などの「々」は、底本では二の字点(第3水準1−2−22)を使用
入力:地田尚
校正:今井忠夫
2001年6月18日公開
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