良いのサ。コロック抜きも螺状をなしているから能く突込めるのだよ。道路は即ち螺状を平面にしたようについているものだよ。事々物々皆螺旋サ。波線で世界を解釈しても解釈が出来るよ、螺線を見つぶしにすれば即ち波線だよ、波線螺線渦線皆曲線より成るものサ、その曲線だらけで出来ているものが良いのサ、強いのサ。尚不思議奇々妙々なのは、植物の芋の蔓《つる》でもムカゴの蔓でも皆螺旋すると同じく、礦《こう》物の蔓もその実は螺旋的になッてるのだが、但し噴火山作用でメチャメチャになッて分らないのサ。火※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《かえん》も螺線になッて燃えるのだが凡眼では見えないのサ。風は年中螺旋に吹てるのサ。小サイ奴が颶風《つむじ》だよ。だから颶風なぞは恐ろしいものではない。推算が上手になれば人間にもっとも幸福を与うるものは颶風だよ。颶風なぞを恐れる世界だから悲しいよ。それで物理学者でござるというのが有る世間だからネ。浪は螺状をなして巻き巻き進むのだよ。まだ沢山例はある、さてこれからがいよいよ奇だよ。
物は或勢力に逐《お》いやらるる時は螺線的運動をするという真理は、すでに充分に分ッたろう。これは中々争うことの出来ない真理さ。しかも物理学上の明晰なる理だよ。イイカネ、例に挙げたものを能く能く考えて貰いたいのサ。ひとつもこの原則に撞着矛盾するものはない。ソコデ何故に物はかく螺線的運動をするのだというのが是非起る大疑問サ。僕がこの疑問に向ッて与うる説明は易々たるものだよ。曰《いわ》くサ、「最も障碍《しょうげ》の少き運動の道は必らず螺旋的なり」というので沢山サ。一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線に極《きま》ッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。直線に進まないのではないが、螺旋をして行く場合には直線にも進むが即ち前にもいッた所の直線的有則螺旋サ。分ッたかネ。たとえば矢が弦を離れてからぐるぐると風を切てまわりながら直線に進む所が近い例サ。あれは即ち直線的に螺旋線を空中に描いてるのだよ。あの矢の鏃《ね》をいろいろに工夫するのだがネ、どうしても雁股《かりまた》はよくいかない。何故というのに雁股は僕の所謂《いわゆる》最も障碍の少きは螺旋的運動なりという原則に反対しているからだ。矢が能く飛ぶには色々の原因もあるがまず第一に螺旋規則に従うからだよ
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