くは閉ざされようとも、吾々の前途の希望は依然として彼処《そこ》に係っている。
 此の時に当たり往々にして知識階級の囁《ささや》くを聞く、此の〈暴〉力の前にいかに吾々の無力なることよと、だが此の無力感の中には、暗に暴力|讃美《さんび》の危険なる心理が潜んでいる、そして之こそファッシズムを醸成する温床である。暴力は一時世を支配しようとも、暴力自体の自壊作用によりて瓦壊《がかい》する。真理は一度地に塗《まみ》れようとも、神の永遠の時は真理のものである。此の信念こそ吾々が確守すべき武器であり、之あるによって始めて吾々は暴力の前に屹然《きつぜん》として亭立しうるのである。



底本:「近代の文章」筑摩書房
   1988(昭和63)年1月15日初版第1刷発行
底本の親本:「近代日本思想大系 第三六巻」筑摩書房
   1978(昭和53)年1月
初出:「帝国大学新聞」
   1936(昭和11)年3月9日発行
※〈〉内は、伏字を起こした箇所です。底本で用いられている〔〕が、「アクセント分解された欧文をかこむ」記号と重なるため、置き換えました。
※底本の「注釈」によると、伏字は石上良平氏によって起こされました。
入力:ゼファー生
校正:染川隆俊
2006年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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