《ある》き出した体《てい》に、むっくりと、大きな風呂敷包を背負《しょ》った形が糶上《せりあが》る。消え残った灯《あかり》の前に、霜に焼けた脚が赤く見える。
中には荷車が迎《むかい》に来る、自転車を引出すのもある。年寄には孫、女房にはその亭主が、どの店にも一人二人、人数が殖《ふ》えるのは、よりよりに家から片附けに来る手伝、……とそればかりでは無い。思い思いに気の合ったのが、帰際《かえりぎわ》の世間話、景気の沙汰《さた》が主なるもので、
「相変らず不可《いけ》ますまい、そう云っちゃ失礼ですが。」
「いえ、思ったより、昨夜《ゆうべ》よりはちっと増《まし》ですよ。」
「また私《わたくし》どもと来た日にゃ、お話になりません。」
「御多分には漏れませんな。」
「もう休もうかと思いますがね、それでも出つけますとね、一晩でも何だか皆さんの顔を見ないじゃ気寂《きさみ》しくって寝られません。……無駄と知りながら出て来ます、へい、油費《あぶらづい》えでさ。」
と一処《ひとところ》に団《かた》まるから、どの店も敷物の色ばかりで、枯野に乾《ほ》した襁褓《むつき》の光景《ありさま》、七星の天暗くして、幹枝盤上《かんしはんじょう》に霜深し。
まだ突立《つった》ったままで、誰も人の立たぬ店の寂《さみ》しい灯先《ひさき》に、長煙草《ながぎせる》を、と横に取って細いぼろ切れを引掛《ひっか》けて、のろのろと取ったり引いたり、脂通《やにどお》しの針線《はりがね》に黒く畝《うね》って搦《から》むのが、かかる折から、歯磨屋《はみがきや》の木蛇の運動より凄《すご》いのであった。
時に、手遊屋《おもちゃや》の冷《ひやや》かに艶《えん》なのは、
「寒い。」と技師が寄凭《よりかか》って、片手の無いのに慄然《ぞっ》としたらしいその途端に、吹矢筒を密《そっ》と置いて、ただそれだけ使う、右の手を、すっと内懐《うちぶところ》へ入れると、繻子《しゅす》の帯がきりりと動いた。そのまま、茄子《なす》の挫《ひしゃ》げたような、褪《あ》せたが、紫色の小さな懐炉《かいろ》を取って、黙って衝《つ》と技師の胸に差出したのである。
寒くば貸そう、というのであろう。……
挙動《しぐさ》の唐突《だしぬけ》なその上に、またちらりと見た、緋鹿子《ひがのこ》の筒袖《つつッぽ》の細いへりが、無い方の腕の切口に、べとりと血が染《にじ》んだ時の状
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