眦《まなじり》を返しながら、
「お前さんの方の芝居は? この女はどうなる幕です。」
「おいの、……や、紛れて声を掛けなんだじゃで、お稲は殊勝気《けなげ》に舞台じゃった。――雨に濡りょうに……折角の御見物じゃ、幕切れだけ、ものを見しょうな。」
 と言うかと思うと、唐突《だしぬけ》にどろどろと太鼓が鳴った。音を綯交《なえま》ぜに波打つ雷《らい》鳴る。
 猫が一疋と鼬《いたち》が出た。
 ト無慙《むざん》や、行燈の前に、仰向《あおむ》けに、一個《ひとつ》が頭《つむり》を、一個《ひとつ》が白脛《しらはぎ》を取って、宙に釣ると、綰《わが》ねの緩んだ扱帯《しごき》が抜けて、紅裏《もみうら》が肩を辷《すべ》った……雪女は細《ほっそ》りとあからさまになったと思うと、すらりと落した、肩なぞえの手を枕に、がっくりと頸《うなじ》が下《さが》って、目を眠った。その面影に颯《さっ》と影、黒髪が丈《たけ》に乱れて、舞台より長く敷いたのを、兇悪異変な面《つら》二つ、ただ面《めん》のごとく行燈より高い所を、ずるずると引いて、美しい女《ひと》の前を通る。
 幕に、それが消える時、風が擲《なげう》つがごとく、虚空から、――雨交りに、電光の青き中を、朱鷺色《ときいろ》が八重に縫う乙女椿の花一輪。はたと幕に当って崩れもせず……お稲の玉なす胸に留まって、たちまち隠れた。
 美しい女《ひと》は筵《むしろ》に爪立《つまだ》って身悶《みもだ》えしつつ、
「お稲さんは、お稲さんは、これからどうなるんです、どうなるんです。」
「むむ、くどいの、あとは魔界のものじゃ。雪女となっての、三つ目入道、大入道の、酌なと伽《とぎ》なとしょうぞいの。わはは、」
 と笑った。
 美しい女《ひと》は、額を当てて、幕を掴《つか》んで、
「生意気な事をお言いでない。幕の中の人、悪魔、私も女だよ、十九だよ……お稲さんと同じ死骸になるんだけれど、誰が、誰が、酌なんか、……可哀相にお稲さんを――女はね、女はね、そんな弱いものじゃない。私を御覧。」
 はたた、はたた神。
 南無三宝《なむさんぽう》、電光に幕あるのみ。
「あれえ。」と聞えた。
 瞬間、松崎は猶予《ためら》ったが、棄ておかれぬのは、続いて、編笠した烏と古女房が、衝《つ》と幕を揚げて追込んだ事である。
 手を掛けると、触るものなく、篠《しの》つく雨の簾《すだれ》が落ちた。
 と見ると、
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