の際立たぬ、色白な娘のその顔。
松崎は見て悚然《ぞっ》とした……
名さえ――お稲です――
肖《に》たとは迂哉《おろか》。今年|如月《きさらぎ》、紅梅に太陽《ひ》の白き朝、同じ町内、御殿町《ごてんまち》あたりのある家の門を、内端《うちわ》な、しめやかな葬式《とむらい》になって出た。……その日は霜が消えなかった――居周囲《いまわり》の細君女房連が、湯屋でも、髪結《かみゆい》でもまだ風説を絶《たや》さぬ、お稲ちゃんと云った評判娘にそっくりなのであった。
「私も今はじめて聞いて吃驚《びっくり》したの。」
その時、松崎の女房は、二階へばたばたと駈上《かけあが》り、御注進と云う処を、鎧《よろい》が縞《しま》の半纏《はんてん》で、草摺《くさずり》短《みじか》な格子の前掛、ものが無常だけに、ト手は飜《ひるがえ》さず、すなわち尋常に黒繻子《くろじゅす》の襟を合わせて、火鉢の向うへ中腰で細くなる……
髪も櫛巻《くしまき》、透切《すきぎ》れのした繻子の帯、この段何とも致方《いたしかた》がない。亭主、号が春狐であるから、名だけは蘭菊《らんぎく》とでも奢《おご》っておけ。
春狐は小机を横に、座蒲団《ざぶとん》から斜《ななめ》になって、
「へーい、ちっとも知らなかった。」
「私もさ……今ね、内の出窓の前に、お隣家《となり》の女房《かみ》さんが立って、通《とおり》の方を見てしくしく泣いていなさるから、どうしたんですって聞いたんです。可哀相に……お稲ちゃんのお葬式《ともらい》が出る所だって、他家《よそ》の娘《こ》でも最惜《いとし》くってしようがないって云うんでしょう。――そう云えば成程何だわね、この節じゃ多日《しばらく》姿を見なかったわね、よくお前さん、それ、あの娘《こ》が通ると云うと、箸をカチリと置いて出窓から、お覗《のぞ》きだっけがね。」
苦笑いで、春狐子。
「余計な事を言いなさんな、……しかし惜《おし》いね、ちょっとないぜ、ここいらには、あのくらいな一枚絵は。」
「うっかり下町にだってあるもんですか。」
「などと云うがね、お前もお長屋月並だ。……生きてるうちは、そうまでは讃《ほ》めない奴《やつ》さ、顔がちっと強《きつ》すぎる、何のってな。」
「ええ、それは廂髪《ひさしがみ》でお茶の水へ通ってた時ですわ。もう去年の春から、娘になって、島田に結ってからといったら、……そりゃ、くいつ
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