づしんと乘《の》つて、あだ黒《ぐろ》く、一《ひと》つくびれて、ばうと浮《う》いて、可厭《いや》なものの形《かたち》に見《み》えた。
 くわツと逆上《のぼ》せて、小腕《こがひな》に引《ひき》ずり退《の》けると、水《みづ》を刎《は》ねて、ばちや/\と鳴《な》つた。
 もの音《おと》もきこえない。
 蓋《ふた》を向《むか》うへはづすと、水《みづ》も溢《あふ》れるまで、手桶《てをけ》の中《なか》に輪《わ》をぬめらせた、鰻《うなぎ》が一條《ひとすぢ》、唯《たゞ》一條《ひとすぢ》であつた、のろ/\と畝《うね》つて、尖《とが》つた頭《あたま》を恁《か》うあげて、女房《にようばう》の蒼白《あおじろ》い顏《かほ》を、凝《じつ》と視《み》た。――と言《い》ふのである。



底本:「鏡花全集 巻十四」岩波書店
   1942(昭和17)年3月10日第1刷発行
   1987(昭和62)年10月2日第3刷発行
初出:「新小説」春陽堂
   1911(明治44)年
※初出時の表題は、「鰻」です。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2006年11月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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