と》を饒舌《しゃべ》るな二才。村は今既に旱《ひでり》の焔に焼けておる。それがために雨乞するのじゃ。やあ衆《みんな》、手ぬるい、遣れ遣れ。(いずれも猶予するを見て)埒《らち》明《あ》かんな、伝吉ども来い。(と喚《わめ》く。)
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博徒伝吉、威《おどし》の長ドスをひらめかし、乾児《こぶん》、得ものを振って出づ。
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伝吉 畳んでしまえ、畳んでしまえ。
乾児 合点《がってん》だ。
晃 山沢、危いぞ。
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とお百合を抱くようにして三人|鐘楼《しょうろう》に駈上《かけあが》る。学円は奥に、上り口に晃、お百合、と互に楯《たて》にならんと争う。やがて押退《おしの》けて、晃、すっくと立ち、鎌を翳《かざ》す。博徒、衆ともに下より取巻く。お百合、振上げたる晃の手に縋《すが》る。
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一同 遣れ遣れ、遣っちまえ、遣っちまえ。
学円 言語道断、いまだかつて、かかる、頑冥暴虐《がんめいぼうぎゃく》の民を知らん! 天に、――天に銀河白し、滝となって、落ちて来い。(合掌す。)
晃 大事な身体《からだ》だ、山沢は遁《に》げい、遁げい。
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と呼ばわりながら、真前《まっさき》に石段を上れる伝吉と、二打三打《ふたうちみうち》、稲妻のごとく、チャリリと合す。
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伝吉退く。時に礫《つぶて》をなげうつものあり。
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晃 (額に傷《きずつ》き血を圧《おさ》えて)あッ。(と鎌を取落す。)
百合 (サソクにその鎌を拾い)皆さん、私が死にます、言分《いいぶん》はござんすまい。(と云うより早く胸さきを、かッしと切る。)
晃 しまった!(と鎌を捩取《もぎと》る。)
百合 晃さん――御無事で――晃さん。(とがっくり落入る。)
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一同|色沮《いろはば》みて茫然《ぼうぜん》たり。
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晃 一人は遣らん! 茨《いばら》の道は負《おぶ》って通る。冥土《めいど》で待てよ。(と立直る。お百合を抱《いだ》ける、学円と面《おもて》を見合せ)何時だ。(と極めて冷静に聞く
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