ったのである。私は掏賊《すり》だ、はじめから敵に対しては、機謀権略、反間苦肉、有《あら》ゆる辣手段《らつしゅだん》を弄して差支えないと信じた。
要はただ、君が家系|門閥《もんばつ》の誇の上に、一部の間隙を生ぜしめて、氏素性、かくのごとき早瀬の前に幾分の譲歩をなさしめん希望に過ぎなかったに、思わざりき、久能山上の事あらんとは。我は偏《ひとえ》に、君の家厳の、左右一顧の余裕のない、一時の激怒を惜《おし》むとともに、清冽一塵の交るを許さぬ、峻厳なるその主義に深大なる敬意を表する。
英吉君、能《あた》うべくは、我意を体して、より美《うつくし》く、より清き、第二の家庭を建設せよ。人生意気を感ぜずや――云々の意を認《したた》めてあった。
門族の栄華の雲に蔽《おお》われて、自家の存在と、学者の独立とを忘れていた英吉は、日蝕の日の、蝕の晴るると共に、嗟嘆《さたん》して主税に聞くべく、その頭脳は明《あきらか》に、その眼《まなこ》は輝いたのである。
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早瀬は潔く云々以下、二十一行抹消。――前篇後篇を通じその意味にて御覧を願う。はじめ新聞に連載の時、この二十一行なし。後単行出版に際し都合により、徒《と》を添えたるもの。或《あるい》はおなじ単行本御所有の方々の、ここにお心つかいもあらんかとて。
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[#地から1字上げ]明治四十(一九〇七)年一〜四月
底本:「泉鏡花集成12」ちくま文庫、筑摩書房
1997(平成9)年1月23日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十卷」岩波書店
1940(昭和15)年5月15日
初出:「やまと新聞」
1907(明治40)年1〜4月
入力:真先芳秋
校正:かとうかおり
2000年8月17日公開
2009年2月1日修正
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