、欄干の処に居た。
 広庭を一つ隔てた母屋の方では、宵の口から、今度暑中休暇で帰省した、牛込桐楊塾の娘たちに、内の小児《こども》、甥《おい》だの、姪《めい》だのが一所になった処へ、また小児同志の客があり、草深の一家《いっけ》も来、ヴァイオリンが聞える、洋琴《オルガン》が鳴る、唱歌を唄う――この人数《にんず》へ、もう一組。菅子の妹の辰子というのが、福井県の参事官へ去年《こぞ》の秋縁着いてもう児《こ》が出来た。その一組が当河野家へ来揃うと、この時だけは道子と共に、一族残らず、乳母小間使と子守を交ぜて、ざっと五十人ばかりの人数で、両親《ふたおや》がついて、かねてこれがために、清水|港《みなと》に、三保に近く、田子の浦、久能山、江尻はもとより、興津《おきつ》、清見《きよみ》寺などへ、ぶらりと散歩が出来ようという地を選んだ、宏大な別荘の設《もうけ》が有って、例年必ずそこへ避暑する。一門の栄華を見よ、と英臣大夫妻、得意の時で、昨年は英吉だけ欠けたが、……今年も怪しい。そのかわり、新しく福井県の顕官が加わるのである……
 さて母屋の方は、葉越に映る燈《ともしび》にも景気づいて、小さいのが弄《もてあそ》ぶ花火の音、松の梢《こずえ》に富士より高く流星も上ったが、今は静《しずか》になった。
 壇の下から音もなく、形の白い脊の高いものが、ぬいと廊下へ出た、と思うと、看護婦二人は驚いて退《すさ》った。
 来たのは院長、医学士河野理順である。
 ホワイト襯衣《しゃつ》に、縞《しま》の粗《あら》い慢《ゆるやか》な筒服《ずぼん》、上靴を穿《は》いたが、ビイルを呷《あお》ったらしい。充血した顔の、額に顱割《はちわれ》のある、髯《ひげ》の薄い人物で、ギラリと輝く黄金縁《きんぶち》の目金越に、看護婦等を睨《ね》め着けながら、
「君たちは……」
 と云うた眼《まなこ》が、目金越に血走った。
「道子に附いているんじゃないか。」
「は、」と一|人《にん》が頭《こうべ》を下げる。
「どうしたか。」
「は、早瀬さんの室を、お見舞になります時は、いつも私《わたくし》どもはお附き申しませんでございます。」と爽《さわやか》な声で答えた。
「なぜかい。」
「奥様がおっしゃいます。御本宅の英吉様の御朋友ですから、看護婦なぞを連れては豪《えら》そうに見えて、容体ぶるようで気恥かしいから、とおっしゃって、お連れなさいませんの
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