門の名誉と云う気障《きざ》な考えが有る内は、情合は分りません。そういうのが、夫より、実家《さと》の両親《ふたおや》が大事だったり、他《ひと》の娘の体格検査をしたりするのだ。お妙さんに指もささせるもんですか。
お妙さんの相談をしようと云うんなら、先ず貴女から、名誉も家も打棄《うっちゃ》って、誰なりとも好いた男と一所になるという実証をお挙げなさい。」
と意気込んで激しく云うと、今度は夫人が、気の無い、疲れたような、倦《うん》じた調子で、
「そしてまた(結婚式は、安東村の、あの、乞食小屋見たような茅屋《あばらや》で挙げろ)でしょう。貴下はまるッきり私たちと考えが反対《あべこべ》だわ。何だか河野の家を滅ぼそうというような様子だもの、家に仇《あだ》する敵《かたき》だわ。どうして、そんな人を、私厭でないんだか、自分で自分の気が知れなくッてよ。ああ、そして、もう、私、慈善市《バザア》へ行かなくッては。もう何でも可いわ! 何でも可いわ。」
夫人と……別れたあとで、主税はカッと障子を開けて、しばらく天を仰いでいたが、
「ああ、今日はお妙さんの日だ。」と、呟《つぶや》いて仰向けに寝た――妙子の日とは――日曜を意味したのである。
宵闇
四十
同《おなじ》、日曜の夜《よ》の事で。
日が暮れると、早瀬は玄関へ出て、框《かまち》に腰を掛けて、土間の下駄を引掛けたなり、洋燈《ランプ》を背後《うしろ》に、片手を突いて長くなって一人でいた。よくぞ男に生れたる、と云う陽気でもなく、虫を聞く時節でもなく、家は古いが、壁から生えた芒《すすき》も無し、絵でないから、一筆|描《が》きの月のあしらいも見えぬ。
ト忌々《いみいみ》しいと言えば忌々しい、上框《あがりがまち》に、灯《ともしび》を背中にして、あたかも門火《かどび》を焚いているような――その薄あかりが、格子戸を透《すか》して、軒で一度暗くなって、中が絶えて、それから、ぼやけた輪を取って、朦朧《もうろう》と、雨曝《あまざれ》の木目の高い、門の扉《と》に映って、蝙蝠《こうもり》の影にもあらず、空を黒雲が行通うか何ぞのように、時々、むらむらと暗くなる……また明《あかる》くなる。
目も放さず、早瀬がそれを凝《じっ》と視《なが》める内に、濁ったようなその灯影が、二三度ゆらゆらと動いて、やがて礫《つぶて》した波が、水の面
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