すから、」
「だって世の中は、そう貴下の云うようには参りませんもの。」
「ならんのじゃない、なる、が、勝手にせんのだ。恋愛は自由です、けれども、こんな世の中じゃ罪になる事がある。盗賊《どろぼう》は自由かも知れん、勿論罪になる。人殺、放火《つけび》、すべて自由かも知れんが、罪になります。すでにその罪を犯した上は、相当の罰を受けるのがまた当前《あたりまえ》じゃありませんか。愚図々々《ぐずぐず》塗秘《ぬりかく》そうとするから、卑怯未練な、吝《けち》な、了見が起って、他《ひと》と不都合しながら亭主の飯を食ってるような、猫の恋になるのがある。しみったれてるじゃありませんか。度胸を据えて、首の座へお直んなさい。私なんざ疾《と》くに――先生……には面《おもて》は合わされない、お蔦……の顔も見ないものと思っている。この上は、どんなことだって恐れはしません。
それに貴女は、島山さんに不快を感じさせながら、まだやっぱり、夫には貞女で、子には慈悲ある母親で、親には孝女で、社会の淑女で、世の亀鑑《きかん》ともなるべき徳を備えた貴婦人顔をしようとするから、痩せもし、苦労もするんです。
浮気をする、貞女、孝女、慈母、淑女、そんな者があるものか。」
「じゃ……私を、」
と擦寄って、
「不埒と言わないばッかりね。」
さすがに顔の色をかえて屹《きっ》と睨《にら》むと、頷《うなず》いて、
「同時に私だって、」
と笑って言う。
その肩を突いて、
「まあ、仕ようの無い我儘《わがまま》だよ。」
三十九
「貴下は始めからそうなんだわ。……
道学者の坂田(アバ大人)さんが、兄さんの媒口《なこうどぐち》を利くのが癪《しゃく》に障るからって、(攫徒《すり》の手つだいをして、参謀本部も諭旨免官になりました。攫徒は、その時の事を恩にして、警察では、知らない間に袂《たもと》へ入れて置いて逆捩《さかねじ》を食わしたように云ってくれたけれど、その実は、知っていて攫徒の手から紙入を受取ってやったんだ。それで宜《よろ》しくばお稽古にお出でなさい、早瀬主税は攫徒の補助をした東京の食詰者《くいつめもの》です。)とこの塾を開く時、千鳥座かどこかで公衆に演説をする、と云った人だもの――私が留めたから止したけれど……」
早瀬の胸のあたりに、背向《うしろむ》きになって、投げ出した褄《つま》を、熟《じっ》と見
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