。」
「待っていたって、私は方々に用があるんだもの、さっさと行って下さらないじゃ、」
「何ですねえ、邪険な、和女《あなた》を待っていたんですよ。来がけに草深へも寄ったのよ。一所に連れて行って欲しいと思って。――さあ、それでは行きましょうね。」
「私は用があるわ。」
「寄道をするんですか。」
「じゃ……ないけども、これから、この早瀬さんと一議論して、何でも慈善会へ引張り出すんですから手間が取れてよ。」
 とまだ坐りもせぬ。
 主税は腕組をしながら、
「はははは、まあ、貴女も、お聞きなさい、お菅さんの議論と云うのを。いくら僕を説いたって、何にもなりゃしないんですから。」
「承わって参りましょうか。」
 と姉夫人が立ちかけた膝をまた据えて、何となく残惜そうな風が見えると、
「早くいらっしゃらなくっちゃ……私は可《い》いけれども、姉さん、貴女は兄さん(医学士)がやかましいんだもの、面倒よ。」
 と見下《みおろ》す顔を、斜めに振仰いだ、蒼白《あおじろ》い姉の顔に、血が上《のぼ》って、屹《きっ》となったが、寂しく笑って、
「ああ、そうね、私は前《さき》に参りましょう。会場の様子は分らないけれど、別にまごつくような事はありますまいから。」
 とおとなしく云って、端然《きちん》と会釈して、
「お邪魔をいたしましてございます。」とちょいと早瀬の目を見たが――双方で瞬きした。
「まあ、御一所が宜しいじゃありませんか。お菅さんもそうなさい。」
「いいえ、そうしてはおられません、もっと、」
 と声に力が籠って、
「種々《いろいろ》お話を伺いとう存じますけれども……」
「私も、直《じき》だわ。」
「待っていますよ。」
 と優しい物越、悄々《しおしお》と出る後姿。主税は玄関へ見送って、身を蔽《おおい》にして、密《そっ》とその袂《たもと》の端を圧《おさ》えた。
「さようなら!」
 勢《いきおい》よく引返すと、早や門の外を轣轆《れきろく》として車が行く。
「暑い、暑い、どうも大変に暑いのね。」
 菅子はもうそこに、袖を軽く坐っていたが、露の汗の悩ましげに、朱鷺《とき》色縮緬の上〆《うわじめ》の端を寛《ゆる》めた、辺《あたり》は昼顔の盛りのようで、明《あかる》い部屋に白々地《あからさま》な、衣《きぬ》ばかりが冷《すず》しい蔭。
「久振だわね。」
「久振じゃないじゃありませんか。今の言種《いいぐさ》は
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