りの中へ、へい、お待遠様、と来たのが竹葉。
小芳が火を起すと、気取気の無いお嬢さん、台所へ土瓶を提げて出る。お蔦も勢《いきおい》に連れて蹌踉《よろよろ》起きて出て、自慢の番茶の焙《ほう》じ加減で、三人睦くお取膳。
お妙が奈良漬にほうとなった、顔がほてると洗ったので、小芳が刷毛《はけ》を持って、颯《さっ》とお化粧《つくり》を直すと、お蔦がぐい、と櫛を拭《ふ》いて一歯入れる。
苦労人《くろうと》が二人がかりで、妙子は品のいい処へ粋になって、またあるまじき美麗《あでやか》さを、飽かず視《なが》めて、小芳が幾度《いくたび》も恍惚《うっとり》気抜けのするようなのを、ああ、先生に瓜二つ、御尤《ごもっと》もな次第だけれども、余り手放しで口惜《くやし》いから、あとでいじめてやろう、とお蔦が思い設けたが、……ああ、さりとては……
いずれ両親には内証《ないしょ》なんだから、と(おいしかってよ。)を見得もなく門口でまで云って、遅くならない内、お妙は八ツ下りに帰った。路地の角まで見送って、ややあって引返《ひっかえ》した小芳が、ばたばたと駈込んで、半狂乱に、ひしと、お蔦に縋《すが》りついて、
「我慢が出来ない。我慢が出来ない。我慢が出来ない。あんな可愛いお嬢さんにお育てなすったお手柄は、真砂町の夫人《おくさん》だけれど、産《う》……産んだのは私だよ。私の子だよ、お蔦さん、身体《からだ》へ袖が触る度《たんび》に、胸がうずいてならなんだ、御覧よ、乳のはったこと。」
と、手を引入れて引緊《ひきし》めて、わっとばかりに声を立てると、思わず熟《じっ》と抱き合って、
「あれ、しっかりおし、小芳さん、癪《しゃく》が起ると不可《いけな》いよ。私たちは何の因果で、」
芸者なんぞになったとて、色も諸分《しょわけ》も知抜いた、いずれ名取の婦《おんな》ども、処女《むすめ》のように泣いたのである。
小待合
二十七
「こうこう、姉《あね》え、姉え、目を開《あ》いて口を利きねえ。もっとも、かっと開いたところで、富士も筑波も見えるかどうだか、覚束ねえ目だけれどよ。はははは、いくら江戸|前《めえ》の肴屋《さかなや》だって、玄関から怒鳴り込む奴があるかい。お客だぜ。お客様だぜ。おい、お前《めえ》の方で惣菜は要らなくっても、己《おら》が方で座敷が要るんだ。何を! 座敷が無え、古風な事を
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