と極《きま》ったが、何かまだ物足りない。
「帯ですか。」
「さよう、」
「これを上げましょう。」
 とすっと立って、上緊《うわじめ》をずるりと手繰った、麻の葉絞の絹|縮《ちぢみ》。
「…………」
 目を見合せ、
「可《い》いわ、」
 とはたと畳に落して、
「私も一風呂入って来ましょう。今の内に。」
 主税はあとで座敷を出て、縁側を、十畳の客室《きゃくま》の前から、玄関の横手あたりまで、行ったり来たり、やや跫音《あしおと》のするまで歩行《ある》いた。
 婢《おさん》が来て、ぬいと立って、
「夫人《おくさま》が言いましけえ、お涼みなさりますなら雨戸を開けるでござります。」
「いや、宜《よろ》しい。」
「はいい。」と念入りに返事する。
「いつも何時頃にお休みだい。」
 と親しげに問いかけながら、口不重宝な返事は待たずに、長火鉢の傍《わき》へ、つかつかと帰って、紙入の中をざっくりと掴んだ。
 疾《はや》い事、もう紙に両個《ふたつ》。
「一個《ひとつ》は乳母《ばあや》さんに、お前さんから、夫人《おくさん》に云わんのだよ。」

       十七

 寝たのはかれこれ一時。
 膳は片附いて、火鉢の火の白いのが果敢《はか》ないほど、夜も更けて、寂《しん》と寒くなったが、話に実が入《い》ったのと、もう寝よう、もう寝ようで炭も継がず。それでも火の気が便りだから、横坐りに、褄《つま》を引合せて肩で押して、灰の中へ露《あら》わな肱《ひじ》も落ちるまで、火鉢の縁《ふち》に凭《もた》れかかって、小豆《あずき》ほどな火を拾う。……湯上りの上、昼間|歩行《ある》き廻った疲れが出た菅子は、髪も衣紋も、帯も姿も萎《な》えたようで、顔だけは、ほんのりした――麦酒《ビイル》は苦くて嫌い、と葡萄酒を硝子杯《コップ》に二ツばかりの――酔《えい》さえ醒めず、黒目は大きく睫毛《まつげ》が開いて、艶やかに湿《うるお》って、唇の紅《くれない》が濡れ輝く。手足は冷えたろうと思うまで、頭《かしら》に気が籠った様子で、相互《たがい》の話を留《や》めないのを、余り晩《おそ》くなっては、また御家来|衆《しゅ》が、変にでも思うと不可《いけ》ませんから、とそれこそ、人に聞えたら変に思われそうな事を、早瀬が云って、それでも夫人のまだ話し飽かないのを、幾度《いくたび》促しても肯入《ききい》れなかったが……火鉢で隔てて、柔かく乗出
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