に柱、向って三方を廻廊下《まわりろうか》のごとく余して、一面に高く高麗《こうらい》べりの畳を敷く。紅《くれない》の鼓の緒、処々に蝶結びして一条《ひとすじ》、これを欄干のごとく取りまわして柱に渡す。おなじ鼓の緒のひかえづなにて、向って右、廻廊の奥に階子《はしご》を設く。階子は天井に高く通ず。左の方《かた》廻廊の奥に、また階子の上下の口あり。奥の正面、及び右なる廻廊の半ばより厚き壁にて、広き矢狭間《やざま》、狭間《はざま》を設く。外面は山岳の遠見《とおみ》、秋の雲。壁に出入りの扉あり。鼓の緒の欄干|外《そと》、左の一方、棟甍《むながわら》、並びに樹立《こだち》の梢《こずえ》を見す。正面おなじく森々《しんしん》たる樹木の梢。
女童《めのわらわ》三人――合唱――
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ここはどこの細道じゃ、細道じゃ、
天神様の細道じゃ、細道じゃ。
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――うたいつつ幕|開《あ》く――
侍女五人。桔梗《ききょう》、女郎花《おみなえし》、萩《はぎ》、葛《くず》、撫子《なでしこ》。各《おのおの》名にそぐえる姿、鼓の緒の欄干に、あるいは立ち、あるいは坐《い》て、手に手に五色《ごし
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