脇に、柱をめぐりて、内を覗《のぞ》き、女童の戯《たわむ》るるを視《み》つつ破顔して笑う
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朱の盤 かちかちかちかち。
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歯を噛鳴《かみな》らす音をさす。女童等、走り近《ちかづ》く時、面《つら》を差寄せ、大口|開《あ》く。
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もおう!(獣の吠《ほ》ゆる真似して威《おど》す。)
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女董一 可厭《いや》な、小父《おじ》さん。
女童二 可恐《こわ》くはありませんよ。
朱の盤 だだだだだ。(濁れる笑《わらい》)いや、さすがは姫路お天守の、富姫御前の禿《かむろ》たち、変化心《へんげごころ》備わって、奥州第一の赭面《あかつら》に、びくともせぬは我折《がお》れ申す。――さて、更《あらた》めて内方《うちかた》へ、ものも、案内を頼みましょう。
女童三 屋根から入った小父さんはえ?
朱の盤 これはまた御挨拶《ごあいさつ》だ。ただ、猪苗代から参ったと、ささ、取次、取次。
女童一 知らん。
女童三 べいい。(赤べろする。)
朱の盤 これは、いかな事――(立直る。大音に)ものも案内。
薄 どうれ。(壁より出迎う)いずれから。
朱の盤 これは岩代国|会津郡《あいづごおり》十文字ヶ原|青五輪《あおごわ》のあたりに罷在《まかりあ》る、奥州変化の先達《せんだつ》、允殿館《いんでんかん》のあるじ朱の盤坊でござる。すなわち猪苗代の城、亀姫君の御供をいたし罷出《まかりで》ました。当お天守富姫様へ御取次を願いたい。
薄 お供御苦労に存じ上げます。あなた、お姫様《ひいさま》は。
朱の盤 (真仰向《あおむ》けに承塵《てんじょう》を仰ぐ)屋の棟に、すでに輿《かご》をばお控えなさるる。
薄 夫人《うちかた》も、お待兼ねでございます。
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手を敲《たた》く。音につれて、侍女三人出づ。斉《ひと》しく手をつく。
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早や、御入《おんい》らせ下さりませ。
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朱の盤 (空へ云う)輿傍《かごわき》へ申す。此方《こなた》にもお待《まち》うけじゃ。――姫君、これへお入《い》りのよう、舌長姥《したながうば》、取次がっせえ。
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