の襟《えり》よりも白かった。
夜ふかしは何、家業のようだから、その夜はやがて明くるまで、野良猫《のらねこ》に注意した。彼奴《きゃつ》が後足《あとあし》で立てば届く、低い枝に、預《あずか》ったからである。
朝寝はしたし、ものに紛《まぎ》れた。午《ひる》の庭に、隈《くま》なき五月の日の光を浴びて、黄金《おうごん》の如く、銀の如く、飛石の上から、柿の幹、躑躅《つつじ》、山吹の上下《うえした》を、二羽|縦横《じゅうおう》に飛んで舞っている。ひらひら、ちらちらと羽が輝いて、三寸、五寸、一尺、二尺、草樹《くさき》の影の伸びるとともに、親雀につれて飛び習う、仔の翼は、次第に、次第に、上へ、上へ、自由に軽くなって、卯《う》の花垣《はながき》の丈《たけ》を切るのが、四、五|度《たび》馴れると見るうちに、崖《がけ》をなぞえに、上町《うわまち》の樹の茂りの中へ飛んで見えなくなった。
真綿を黄に染めたような、あの翼が、こう速《すみやか》に飛ぶのに馴れるか。かつ感じつつ、私たちは飽かずに視《なが》めた。
あとで、台所からかけて、女中部屋の北窓の小窓の小縁《こえん》に、行ったり、来たり、出入《ではい》りするのは、五、六羽、八、九羽、どれが、その親と仔の二羽だかは紛れて知れない。
――二、三羽、五、六羽、十羽、十二、三羽。ここで雀たちの数を言ったついでに、それぞれの道の、学者方までもない、ちょっとわけ知りの御人《ごじん》に伺《うかが》いたい事がある。
別の儀でない。雀の一家族は、おなじ場所では余り沢山《たくさん》には殖えないものなのであろうか知ら? 御存じの通り、稲塚《いなづか》、稲田《いなだ》、粟黍《あわきび》の実る時は、平家《へいけ》の大軍を走らした水鳥《みずどり》ほどの羽音《はおと》を立てて、畷行《なわてゆ》き、畔行《あぜゆ》くものを驚かす、夥多《おびただ》しい群団《むれ》をなす。鳴子《なるこ》も引板《ひた》も、半ば――これがための備《そなえ》だと思う。むかしのもの語《がたり》にも、年月《としつき》の経《ふ》る間には、おなじ背戸《せど》に、孫も彦《ひこ》も群《むらが》るはずだし、第一|椋鳥《むくどり》と塒《ねぐら》を賭けて戦う時の、雀の軍勢を思いたい。よしそれは別として、長年の間には、もう些《ちっ》と家族が栄えようと思うのに、十年一日と言うが、実際、――その土手三番町《どてさん
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