ざる》でその南の縁《えん》へ先ず伏せた。――ところで、生捉《いけど》って籠に入れると、一時《ひととき》と経《た》たないうちに、すぐに薩摩芋《さつまいも》を突《つッ》ついたり、柿を吸ったりする、目白鳥《めじろ》のように早く人馴れをするのではない。雀の児《こ》は容易《たやす》く餌《え》につかぬと、祖母にも聞いて知っていたから、このまだ草にふらついて、飛べもしない、ひよわなものを、飢えさしてはならない。――きっと親雀が来て餌《え》を飼《か》おう。それには、縁《えん》では可恐《こわ》がるだろう。……で、もとの飛石の上へ伏せ直した。
 母鳥《ははどり》は直ぐに来て飛びついた。もう先刻《さっき》から庭樹《にわき》の間を、けたたましく鳴きながら、あっちへ飛び、こっちへ飛び、飛騒《とびさわ》いでいたのであるから。
 障子《しょうじ》を開けたままで覗《のぞ》いているのに、仔《こ》の可愛さには、邪険な人間に対する恐怖も忘れて、目笊の周囲を二、三尺、はらはらくるくると廻って飛ぶ。ツツと笊《ざる》の目へ嘴《はし》を入れたり、颯《さっ》と引いて横に飛んだり、飛びながら上へ舞立《まいた》ったり。そのたびに、笊の中の仔雀のあこがれようと言ったらない。あの声がキイと聞えるばかり鳴き縋《すが》って、引切《ひっき》れそうに胸毛を震わす。利かぬ羽を渦《うず》にして抱きつこうとするのは、おっかさんが、嘴《はし》を笊の目に、その……ツツと入れては、ツイと引く時である。
 見ると、小さな餌《え》を、虫らしい餌を、親は嘴《くちばし》に銜《くわ》えているのである。笊の中には、乳離《ちばな》れをせぬ嬰児《あかんぼ》だ。火のつくように泣立《なきた》てるのは道理である。ところで笊の目を潜《くぐ》らして、口から口へ哺《くく》めるのは――人間の方でもその計略だったのだから――いとも容易《やさし》い。
 だのに、餌を見せながら鳴き叫ばせつつ身を退《ひ》いて飛廻《とびまわ》るのは、あまり利口でない人間にも的確に解せられた。「あかちゃんや、あかちゃんや、うまうまをあげましょう、其処《そこ》を出ておいで。」と言うのである。他《ひと》の手に封じられた、仔はどうして、自分で笊が抜けられよう? 親はどうして、自分で笊を開けられよう? その思《おもい》はどうだろう。
 私たちは、しみじみ、いとしく可愛くなったのである。
 石も、折箱《おり
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